文章題の「ふえる・へる」|「もらったら たし算」と教えないほうがいい理由
小学1年生の算数で、つまずきやすいところの一つが文章題です。「もらったから たし算」「あげたから ひき算」。そう教えるとすぐ答えが出るので、ついそう声をかけたくなります。ところがこの覚え方は、ある種類の問題で、たし算とひき算を取り違えさせてしまうことがあります。このページでは、その理由と、家でできる声かけの工夫を紹介します。お子さんが 3 問だけ試せる体験も、途中に用意しました。
「もらったら たし算」は、なぜうまくいかないことがあるのか
たとえば、次の問題を見てください。
はこに おはじきが 10こ あります。ともだちが 4こ もらって いきました。はこの おはじきは いくつに なりましたか。
文の中に「もらって」があるので、「もらったから たし算」と覚えていると、10 + 4 = 14 と書きたくなります。でも、たずねているのは「はこの おはじき」です。おはじきは、はこから ともだちの手に移っています。はこの中身は減るので、式は 10 − 4 です。
ここで「もらう」という言葉は、ともだちから見ればふえる動きで、はこから見ればへる動きです。「もらう」は ふつう「ふえる」と結びつけて覚えやすい言葉ですが、この問題では たずねている数(はこの おはじき)が へります。どちらの数をたずねているかで、答えの向きが逆になります。このページでは、こうした問題を「ねじれの問題」と呼びます(おうちの方が見分けるための呼び名です)。
ねじれの問題は、特別に意地悪な問題というわけではありません。文をそのとおりに読めば、たずねている数が ふえるか へるかは 1 つに決まります。当サイトの練習ページでは、文をそのとおりに読む練習になるよう、こうした問題を意図して混ぜています(数が動くひき算の文章題の 3 割から 5 割近く、たし算では 1 割ほど)。
しかも、この覚え方で一度うまくいくと、「文を読む」より「動詞を探す」ほうが早いと気づく子もいます。読まずに動詞を探す癖がつくと、問題が長くなったり、2 回動く問題になったりしたときに、立ち止まりにくくなることがあります。
とはいえ、多くの問題ではこの覚え方で答えが合うので、そう声をかけてきたのは自然なことです。気づいたときから、少しずつ言い方を変えていけばよいと思います。
学習指導要領では、算数の文章題をどう位置づけているか
文部科学省の「小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 算数編」には、第 1 学年の加法・減法の意味について、次のような記述があります(84 ページ)。
「これらの指導に当たっては,具体的な場面について,児童がどの場合も同じ加法や減法が適用される場として判断することができるようにすることが大切である。」
そして、加法と減法の意味は次のようにまとめられています。
「加法は二つの集合を合わせた集合の要素の個数を求める演算であり,減法は一つの集合を二つの集合に分けたときの一方の集合の要素の個数を求める演算であることについて,具体物を用いた活動などを通して理解できるようにすることが大切である。」
同じページには、加法が用いられる場合として「ある数量に他の数量を追加したり,ある数量が増加したりしたときの数量の大きさを求める場合(増加)」が、減法が用いられる場合として「ある数量から,他の数量を取り去ったり,ある数量が減少したりしたときの残りの数量の大きさを求める場合(求残)」が挙げられています。同じページには、ほかにも、二つの数量を合わせる場合(合併)や、二つの数量の違いを求める場合(求差)などが挙げられ、第 1 学年では増加・求残に加えて、合併・求差なども主に扱うとされています。最初に引いた文の「これら」は、こうしたいくつもの場合を指しています。
ここで注目したいのは、増加・求残の場合に「ふえる」「へる」を決めるのが、動詞(もらう・あげる)ではなく、「ある数量」がどうなったか、という点です。つまり、まず「どの数量の話か」を決め、そのうえで、その数量がふえたのか、へったのかを見る、という順番になります。これは、あくまで当サイトの読み方ですが、「たずねている数を 1 つ決める」という考え方と、相性がよいように思います。
声かけを「はこに はいったら ふえる、でたら へる」にしてみる
では、どう声をかければよいでしょうか。ひとつの案が、たずねている数を 1 つの入れ物(はこ・おさら・ふくろなど)として考える見方です。
- はこに はいったら ふえる
- はこから でたら へる
「もらった」「あげた」という動詞は使いません。かわりに、入れ物を主語にします。先ほどの問題なら、次のような流れです。
- 「いま きいて いるのは、どこの おはじき?」 → はこの おはじき
- 「はこから でた? はこに はいった?」 → はこから、ともだちに いった(でた)
- 「でたら へる ね」 → ひき算
ポイントは、1 つめの問いで「はこ」と答えさせることです。ここが決まると、2 つめ以降を動詞に引っ張られずに考えやすくなります(そう考えて選んだ言い方です)。逆に、「ともだちの おはじき」をたずねる問題なら、ともだちの手に入るので、ふえます。同じ「もらう」でも、見る入れ物によって、ふえたりへったりする。この感覚を、短い言葉で支えるのがねらいです。
なお、この声かけは、数が はいったり でたりして「いくつに なったか」をたずねる問題のためのものです。「あわせて いくつ」「ちがいは いくつ」の問題や、2 年生で学ぶ「はじめに いくつ あったか」をたずねる問題には、そのままでは使えません。どの問題でも、「たずねている数はどれか」から始めるのが共通の入り口です。
これは、特定の子に効く方法として確かめられたものではありません。「こういう考え方があります」という提案として、お子さんの様子を見ながら、合うかどうか試してみてください。
言わないほうがよさそうな声かけ
- 「もらったから たし算」「たべたから ひき算」のように、動詞と計算を結ぶ言い方。「もらったから たし算」はねじれの問題で、「たべたから ひき算」は「ぜんぶで なんこ たべましたか」のように食べた数をたずねる問題で外れます
- 判断のあとの「ちがうよ」。「ふえる・へる」は 2 択なので、当て推量でも半分は当たります。正誤だけを返すより、次の見るべき場所を伝えるほうが、次につながります
- 「これは ねじれ(ひっかけ)だよ」と前もって教えること。問題を読む前に身構えてしまうことがあります。「ねじれ」は、おうちの方が見分けるための言葉です
体験:「?の はこ」を 3 問だけ試してみる
ここまで読んだ考え方を、お子さんといっしょに試せる場を用意しました。たずねている数を 1 つの入れ物として描き、入るとふえる、出るとへる、が動きで見えるしくみです。保護者の方が隣で見守りながら、お子さんが 3 問だけ解きます。文を 1 つずつ読んで、はこの数が[ふえる]か[へる]かを選ぶと、ものが はこに入ったり出たりします。選び終わると、答えの 4 つが出ます。選び方がちがっても、ボタンが薄くなって正しい向きに動くだけです。ログインは不要で、結果の記録は残りません。うまくいかなくても、様子を見るためのものですので、気軽にどうぞ。
1 年の図は、タブレットかパソコンの画面のほうが見やすくなります。スマートフォンは縦向きでお使いください(横向きでは、図とボタンが 1 画面に収まりません)。
誤答を ×・赤で返さない理由
体験の中で、お子さんが違う答えを選ぶ場面があるかもしれません。この練習では、誤答に ×印や赤い色、ブザーの音を出していません。押した選択肢が薄くなるだけで、そのあと次のような流れになります。
- ヒント:1 回目に違ったら、考える手がかり(入れ物の中身など)を見せて、もう一度選べる
- 答えの提示:2 回目も違ったら、正しい答えを見せる
- 自分でタップ:見せた答えを、お子さんが自分でタップしてその問題を終える
こうする理由は 2 つあります。
ひとつは、赤い×印は「間違えた」という情報を伝えるだけで、「どう考えればよいか」を伝えないからです。つまずきやすいお子さんほど、×が続くと算数そのものから離れてしまうことがあります。もうひとつは、答えを見るだけで終わらず、自分の手で正しい答えを選んで区切りをつけられるからです。ログインして練習した場合は、つまずきやすい種類の問題が、別の日にまた出てきます。
家庭でも同じです。間違えたときは「ちがうよ」と言うかわりに、「いま きいて いるのは、どこの おはじき?」と入れ物に戻してあげる。それだけで、お子さんが自分で気づく余地が残ります。
家でできる 3 つの手順
練習ページを使わなくても、家にあるもので試せます。
1. 具体物を使う
おはじき、ブロック、お菓子などを用意し、入れ物(箱・お皿)に入れます。問題文を 1 文ずつ読み、そのとおりに動かします。「はこに 10こ」→ 10 個入れる。「ともだちが 4こ もらった」→ はこから 4 個取り出して、ともだちのお皿に置く。動かしてから、「はこには いくつ のこった?」と聞きます。学習指導要領の解説にも、具体物を用いた活動などを通して理解できるようにすることが大切、とありました。
2. 「どの数?」を最初に決める
問題文のたずねている部分に線を引き、「これは どこの おはじき?」と声に出します。ここを毎回やるだけでも、動詞に引っ張られる場面が減ることがあります。
3. ことばを置き換える
数が動く問題では、「もらう」「あげる」「くれる」「たべる」「つかう」を、「はこから でる」か「はこに はいる」に置き換えて考えられます。置き換えの練習として、「もらった」を見たら「はこから でた? はこに はいった?」と聞いてみてください。
どの手順も、1 回で身につくものではありません。お子さんが嫌がるようなら、いったんやめて大丈夫です。
最初の数日、見てあげてほしいこと
- 文を読んでから答えを選んでいるか。読まずにすぐ押すようなら、横で 1 回、文を読んであげてください
- 「あれ?」と止まる場面は、悪い反応ではありません。ねじれの問題で止まるのは、「もらった」で決められないことに気づいている、とも考えられます
- 同じ答え(いつも「へる」など)を、読まずに押し続けていないか。そのときも、横で 1 回、文を読んであげてください
観察の結果、続けるのがつらそうな様子があれば、無理に続けないでください。学校の先生や、通っている施設の職員の方に相談するのも一つの方法です。
さんすうの練習ページで続けてみる
さんすうの練習ページでは、1 年生の計算と文章題(ここで紹介した「?の はこ」の見方)と、3 年生の計算などを練習できます。登録すると記録が残り、保護者ページで見返せます。お子さんのペースで、短い時間から始めてみてください。
学習面の支援がある施設を探す
家庭だけで抱え込まず、学習の支援を受けられる場を探す方法もあります。放課後等デイサービスの中には、療育の内容に学習支援を含む施設があります。トップページからお住まいの市区町村のページを開き、療育内容の絞り込みで「学習支援」を選ぶと、該当する施設だけを表示できます。見学や体験のときは、文章題のような具体的な困りごとを、先に伝えておくと話が進みやすくなります。
出典
文部科学省「小学校学習指導要領(平成 29 年告示)解説 算数編」(平成 29 年 7 月)84 ページ
https://www.mext.go.jp/content/20211102-mxt_kyoiku02-100002607_04.pdf
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